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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
私はこの、熊谷の言葉が又癪に触りました。「踊ってやんな」とは何と云う云い草だ。己を何だと思っているのだ? この青二才が!
「なあに、ナオミ君が云うほど拙かありませんよ、もっと下手なのがいくらも居るじゃありませんか」
と浜田は云って、
「どうです、綺羅子さん、今度のフォックス・トロットに河合さんと踊って上げたら?」
「はあ、何卒………」
綺羅子は矢張女優らしい愛嬌を以てうなずきました。が、私は慌てて手を振りながら、
「やあ、駄目ですよ駄目ですよ」
と、滑稽なほど面喰ってそう云いました。
「駄目なことがあるもんですか。あなたのように遠慮なさるからいけないんですよ。ねえ、綺羅子さん」
「ええ、………どうぞほんとに」
「いやあいけません、とてもいけません、巧くなってから願いますよ」
「踊って下さるって云うんだから、踊って戴いたらいいじゃないの」
と、ナオミはそれが、私に取っての身に余る面目ででもあるかのように、おッ被せて云って、
「譲治さんはあたしとばかり踊りたがるからいけないんだわ。―――さあ、フォックス・トロットが始まったから行ってらっしゃい、ダンスは他流試合がいいのよ」
“Will you dance with me?”