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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
が悪かったんだ。
けれどもまさか、………まさか事実じゃないのじゃなかろうか? ナオミは生意気にはなったが、でも品性は気高い女だ。己はその事をよく知っている。うわべは己を軽蔑したりするけれども、十五の歳から養ってやった己の恩義には感謝している。決してそれを裏切るようなことはしないと、寝物語に彼女が屡涙を以て云う言葉を、己は疑うことは出来ない。あのKの話―――事に依ったら、あれは会社の人の悪い奴等が、己をからかうのじゃなかろうか? ほんとうに、そうであってくれればいいが。………あの、Kの親戚の学生と云うのは誰だろうか? その学生の知っているのでも二三人は関係がある? 二三人?………浜田? 熊谷?………怪しいとすればこの二人が一番怪しい、が、それならどうして二人は喧嘩しないのだろう。別々に来ないで、一緒にやって来て、仲よくナオミと遊んでいるのはどう云う気だろう? 己の眼を晦ます手段だろうか? ナオミが巧く操っているので、二人は互に知らないのだろうか? いや、それよりも何よりも、ナオミがそんなに堕落してしまっただろうか? 二人に関係があったとしたら、この間の晩の雑魚寝のような、あんな無耻な、しゃあしゃあとした真似が出来るだろうか? 若しそうだったら彼女のしぐさは売笑婦以上じゃないか。