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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

ダンスにも行くことは行きますけれど、今までのように頻繁ではなく、行っても余り沢山は踊らずに、程よいところで切り上げて来る。客もうるさくはやって来ない。私が会社から帰って来ると、独りで大人しく留守番して、小説を読むとか、編物をするとか、静かに蓄音器を聴いているとか、花壇に花を植えるとかしている。

「今日も独りで留守番かね?」

「ええ、独りよ、誰も遊びに来なかったわ」

「じゃ、淋しくはなかったかね?」

「始めから独りときまっていれば、淋しいことなんかありゃしないわ、あたし平気よ」

そう云って、

「あたし、賑やかなのも好きだけれど、淋しいのも嫌いじゃないわ。子供の時分にはお友達なんかちっともなくって、いつも独りで遊んでいたのよ」

「ああ、そう云えばそんな風だったね。ダイヤモンド・カフエエにいた時分なんか、仲間の者ともあんまり口を利かないで、少し陰鬱なくらいだったね」

「ええ、そう、あたしはお転婆なようだけれど、ほんとうの性質は陰鬱なのよ。―――陰鬱じゃいけない?」

「大人しいのは結構だけれど、陰鬱になられても困るなア」

「でもこの間じゅうのように、暴れるよりはよくはなくって?」