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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

が、ナオミの為めに田舎から送ってよこしたのは、女中を寝かす夜具でしたから、お約束の唐草模様の、ゴワゴワした木綿の煎餅布団でした。私は何だか可哀そうな気がしたので、

「これではちょっとひど過ぎるね、僕の布団と一枚取換えて上げようか」

と、そう云いましたが、

「ううん、いいの、あたしこれで沢山」

と云って、彼女はそれを引っ被って、独り淋しく屋根裏の三畳の部屋に寝ました。

私は彼女の隣りの部屋―――同じ屋根裏の、四畳半の方へ寝るのでしたが、毎朝々々、眼をさますと私たちは、向うの部屋と此方の部屋とで、布団の中にもぐりながら声を掛け合ったものでした。

「ナオミちゃん、もう起きたかい」

と、私が云います。

「ええ、起きてるわ、今もう何時?」

と、彼女が応じます。

「六時半だよ、―――今朝は僕がおまんまを炊いてあげようか」

「そう? 昨日あたしが炊いたんだから、今日は譲治さんが炊いてもいいわ」

「じゃ仕方がない、炊いてやろうか。面倒だからそれともパンで済ましとこうか」

「ええ、いいわ、だけど譲治さんは随分ずるいわ」

そして私たちは、御飯がたべたければ小さな土鍋で米を炊ぎ、別にお櫃へ移すまでもなくテーブルの上へ持って来て、罐詰か何かを突ッつきながら食事をします。