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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
何しろ家庭が悪かったんです、僕も今になって、しみじみそれを思いますよ」
「そう聞くと、尚更恐ろしくなりますなあ、ナオミさんには生れつき淫蕩の血が流れていたんで、ああなる運命を持っていたんですね、折角あなたに拾い上げて貰いながら、―――」
二人はそこで三時間ばかりしゃべりつづけて、戸外へ出たのは夜の七時過ぎでしたが、いつまで立っても話は尽きませんでした。
「浜田君、君は省線で帰りますか?」
と、川崎の町を歩きながら、私は云いました。
「さあ、これから歩くのは大変ですから、―――」
「それはそうだが、僕は京浜電車にしますよ、彼奴が横浜にいるんだとすると、省線の方は危険のような気がするから」
「それじゃ僕も京浜にしましょう。―――だけどもいずれ、ナオミさんはああ云う風に四方八方飛び廻っているんだから、きっと何処かで打つかりますよ」
「そうなって来ると、うッかり戸外も歩けませんね」
「盛んにダンス場へ出入りしているに違いないから、銀座あたりは最も危険区域ですね」
「大森だって危険区域でないこともない、横浜があるし、花月園があるし、例の曙楼があるし、………事に依ったら、僕はあの家を畳んでしまって下宿生活をするかも知れません。