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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

それほど知りたけりゃあたしの跡をつけていらっしゃい、秘密探偵は譲治さんのお得意だから」

「まさかそれほどにしたくはないがね、―――しかしお前のいる所が何処か近所に違いないとは思っているんだ」

「へえ、どうして?」

「だって、毎晩やって来て荷物を運んで行くじゃないか」

「毎晩来るから近所にいると限りゃしないわ、電車もあれば自動車もあるわよ」

「じゃ、わざわざ遠くから出て来るのかい?」

「さあ、どうかしら、―――」

そう云って彼女はハグラカシてしまって、

「―――毎晩来ちゃあ悪いッて云うの?」

と、巧妙に話頭を転じました。

「悪いと云う訳じゃあないが、………来るなと云っても構わず押しかけて来るんだから、今更どうも仕方がないが、………」

「そりゃあそうよ、あたしは意地が悪いから、来るなと云えば尚来るわよ。―――それとも来られるのが恐ろしいの?」

「うん、そりゃ、………いくらか恐ろしくないこともない。………」

すると彼女は、仰向きになって真っ白な頤を見せ、紅い口を一杯に開けて、俄かにきゃッきゃッと笑いこけました。

「でも大丈夫よ、そんな悪い事はしやしないわよ。それよりかもあたし、昔のことは忘れてしまって、これから後もただのお友達として、譲治さんと附き合いたいの。