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ちじんのあい

痴人の愛

谷崎 潤一郎

「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页

青空文庫

―――それは全く、ただそうやって冷かして歩くだけでも、二人に取っては優に面白い遊びでした。

近頃でこそ一般の日本の婦人が、オルガンディーやジョウゼットや、コットン・ボイルや、ああ云うものを単衣に仕立てることがポツポツ流行って来ましたけれども、あれに始めて目をつけたものは私たちではなかったでしょうか。ナオミは奇妙にあんな地質が似合いました。それも真面目な着物ではいけないので、筒ッぽにしたり、パジャマのような形にしたり、ナイト・ガウンのようにしたり、反物のまま身体に巻きつけてところどころをブローチで止めたり、そうしてそんななりをしてはただ家の中を往ったり来たりして、鏡の前に立って見るとか、いろいろなポーズを写真に撮るとかして見るのです。白や、薔薇色や、薄紫の、紗のように透き徹るそれらの衣に包まれた彼女の姿は、一箇の生きた大輪の花のように美しく、「こうして御覧、ああして御覧」と云いながら、私は彼女を抱き起したり、倒したり、腰かけさせたり、歩かせたりして、何時間でも眺めていました。

こんな風でしたから、彼女の衣裳は一年間に幾通りとなく殖えたものです。彼女はそれらを自分の部屋へはとてもしまいきれないので、手あたり次第に何処へでも吊り下げたり、丸めて置いたりしていました。