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ちじんのあい
痴人の愛
谷崎 潤一郎
「大阪朝日新聞」1924(大正13)年3月~5月<br>「女性」1924(大正13)年11月~1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 179,399 字 · 353 页
「ちょいちょい遊びにやって来るのかい」
「いいえ、今日が始めてよ、近所へ来たから寄ったんだって。―――今度ソシアル・ダンスの倶楽部を拵えるから、是非あたしにも這入ってくれッて云いに来たのよ」
私は多少不愉快だったのは事実ですが、しかしだんだん聞いて見ると、その少年が全くそれだけの話をしに来たのであることは、嘘でないように考えられました。第一彼とナオミとが、私の帰って来そうな時刻に、庭先でしゃべっていたと云うこと、それは私の疑いを晴らすのに十分でした。
「それでお前は、ダンスをやるって云ったのかい」
「考えて置くって云っといたんだけれど、………」
と、彼女は急に甘ったれた猫撫で声を出しながら、
「ねえ、やっちゃいけない? よう! やらしてよう! 譲治さんも倶楽部へ這入って、一緒に習えばいいじゃないの」
「僕も倶楽部へ這入れるのかい?」
「ええ、誰だって這入れるわ。伊皿子の杉崎先生の知っている露西亜人が教えるのよ。何でも西比利亜から逃げて来たんで、お金がなくって困ってるもんだから、それを助けてやりたいと云うんで倶楽部を拵えたんですって。だから一人でもお弟子の多い方がいいのよ。