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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

あとを追う高倉祐吉は半分は無我夢中であった。暑さと歩き難さのためにぼーッとなり、手に触れるものは何でも手あたり次第に縋りついた。漕ぐようにして身体を押し進めた。それでもときどき先導者の姿を見うしないそうな不安に駆られた。

「上から見ると、直ぐそばのように思いましたが――遠いですね」

「何じゃ、と?」と、戸田老人は足をとめた。

その間に祐吉は追いついた。

「もうはや、弱音を吐きおるな」

「ちがいますよ、鳥が鳴いていますので――うぐいすが」と少年は云った。

草をおし分けるばさばさという音が消えたので、谷間の静かさがごッと襲ったのであった。そのとき祐吉は小鳥の鳴き声を聞いたと思った。

老人は言下に否定した。

「ばかなこと――鶯とは何を寝とぼけとるのじゃ」

「でも、ほら?」と祐吉は耳を傾けた。

「うん?」

「鶯でしょう?」

「――らしい」と老人は首をふって、「ばかものめが」と罵りながら歩きだした。彼の硬ばった感受性にも時ならぬ藪うぐいすの鳴きごえが刺激をあたえた。鵜呑みにして埋めて来た哀しみが抉りだされるのだ、「蝦夷のうぐいすめは季節の去就にまよっておるのじゃ、たわけもの奴が、碌なことはあるまいさ」