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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

いたどりの白ッぽい花が見えて、その草むらを踏み分けると、下にはシラッカリの谷川があった。青いあちらの樹林からせせらいで流れて来て、そして再び、青い樹林の彼方に匐いこむのである。時季によって溢水するであろう河原が、ごろごろと岩をさらして白く乾いていた。戸田老人は荷を岩に置いて流れの上にうつ伏せになった。唇をつきだし、口を持って行って、冷たい水を吸いあげた。咽喉を通る水音がごくごくと聞えた。

それほど静寂であった――樹々の梢では蝉が鳴いていたし、うす黒い木蔭のあたりでは秋の虫がすだいていた。

戸田老人は右から左――と、四肢の一つ一つにそれぞれ順々に力を入れて腕をつき立て、後脚をひき、どっこいしょと立ちあがった。彼は濡れた口を手甲で拭いてつぶやいた。

「流れる水ほど清潔なものはありません。渓谷の清水ほどうまいものがあろうか、――おぬし、咽喉はかわきなさらんか? どれ一服」

彼は岩に腰かけて煙管を咥え、青い煙を吐きながら高倉祐吉を見つめだすのである。子の縁に薄い我が身を、ふッと思い浮べた。それは戦場ではなく病魔に奪われた。遺ったこの親どもに慰めきれない空洞を拵えた。