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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

自分も行くべきであるか否か、まだ思いまよっているとき、折りかえすように阿賀妻の声が遠くから命じていた。

「行って呼んで来て下され、あの、そら、案内の男を――おお、ついでに鍋なぞ、米なぞを持たせて――」

うしろの木立ちにぼーっと明らんだところが見えて、火も燃えて来た。ぬるぬるとすべる足もとを踏みしめて彼は焚火のそばに戻って行った。一度燃えついた火焔のいきおいは、積みあげた木の間に這いまわっていた。湿りけをぱちぱちとはじきだすのだ。焙りだされてまっ赤になった戸田老人は、あきらかに生気を取り戻した。ま向うから、わめくように話しかけた。

「阿賀妻どのはどうなされた?」

「おい」

玉目三郎は幾らか不機嫌に、背を向けている人夫を呼んだ。

案内人は首をすくめて、ゆっくりとうしろをふり仰いだ。

「呼んでおられる、水があると」

「えッ?」と云った。彼はつっ立って叫んだ。

「やっぱりそうだ、トウベツ川の枝沢にかかっとる、どちらですね?」

玉目三郎はとび立つように元気になったその男をじろじろと睨んでいた。

「こちらですか」

「うん」

そのまま駈けだそうとする男を、彼は「おい――」と呼びとめた。