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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
近親には、その後の模様を仔細にわたってしたため、書状を托してやった。飛脚も駅逓もひらけていない土地に来てしまった彼らには、――わけても女どもには――これがはじめての、思いを込めた便りであった。書いても書いても書き足りぬ消息であった。あれこれと憶い浮べる家中の共通な知人には、まんべんなく、「よろしく申して欲しい」とことづけるのである。くどいほどそれを繰りかえしたが、まだ何か云い足りないものがあった。霜柱をけたてて女房らもまた朝はやく、身もだえるように駈けだして来た。旅立つもののあとを追いかけ、彼らの前にとびだして頭を低げた。唇をかんで横に身を避けて瞼をおさえた。
云うべき言葉は何もないのであった。けれども、云って貰いたいことは胸に一ぱい溢れていた。生れて育った郷里のなつかしさががくがくと咽喉につかえた。涙になってこみあげて、泣けたらどんなに楽になるだろう。
しかし、いつまで跟いて行っても同じことではないか。人も云い、自分も知っていた。
もとの家老の妻女が立ちどまって、女房たちを代表して、「それでは――」と挨拶をした。海岸の砂ッ原の路で、彼女らの一かたまりは、号令をかけられたように佇むのだ。