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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

「県吏どもの申告が!」

阿賀妻はそう吐きだした。しかし、さすがに、それを大ごえで主張する勇気は無かった。自分の胸が事の真相をいちばん悉しく知っているのだ。腕を組んでみた。が、しばらく彼は窮鼠のかたちであった。眼を光らせて、前にならんだ官員の顔をじろじろながめていた。

堀は報告に読みふけっていた。

「しかし――」と、遂に阿賀妻はごくりと唾をのみこんで云った、「開拓は開拓使の使命でござろうが」

誰も何とも答えなかった。

「われら、開拓を致しておらぬとは云わせぬのじゃ」と附け足した。

なぜか言葉が上ずって来た。

「されば、われらの一団百五十名のものは、開拓使と共に生き得るものと、今日の今日まで信じていました、開拓使のみが、この誠意を知る友と感じていました、しかし、そうではなかった――と、すれば、よろしい、ご趣旨の通りお伝え致そう――」

「そのことなれば、阿賀妻さん」堀は小さな眼で相手の胸もとを睨みつけていた、「いくらも方法はあります」と、彼は反対に余裕をもってつづけた、「方法を考えることも出来ます、とにかく、ごたごたと、つまらぬ面目にかかずらっている時代じゃありません、――なに、もうそんな時刻か、身どもは行かねばなりません、いずれ後刻」