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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
彼は背中の弁当包みを揺りあげて見せた。
「お前こそ空いているだろう?」
「なにがあなた、一度や二度喰わなくったって――」
人夫はまた歩きだした。彼の眉宇はひきしまった。見とおしもついて来た。どこか地の底をふるわせて、本流の重い水音も聞えるようであった。見知った川筋も間近かであった。おのずから湧く自信ある態度がずばずばと云いきった。
「どっちにしろ楽な路じゃありませんぜ、いつどこでどうなるかも判ったものでもありません、我慢出来るだけ我慢することだ、苦労はお互いというものだ」
急がずあせらず、草に埋もれて堂々と進むのであった。
「何里ある?」
「ツイシカリから十里というから、まだここからだらば六里と何ぼかと見れば間違いねえでしょう、途中には部落も出来ています、なアに、舟で下れば一息だ」
「どこにその舟がある?」
「心配しなさんな」と彼は成算のあるように大きく頷いた。
「お前はいつごろから当地にまいった?」
「はやい話でさ――」と彼は口をつぐんだ。
ご一新の前も何年か昔のことであった。彼は、石狩場所を目当てにして募られた漁夫のうちにいた一人であった。
そう云えばまッ当らしいが、それから以前のことは、聞かせたくもなければ思いだすのも億劫なのだ。