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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

概して昔のことは考えたくない彼であった。勿論行く末のことは神さまだけしか知らないだろう。魚猟のあとをおいかけてずるずると遠い辺土に踏みこんでいた。人々の目がこちらに向って注がれたとき、彼はひとりでに、往来するものの先達に仕立てあげられていた。道路のない土地では、人は取りあえず川に沿って歩いた。イシカリ川はその幹道である。

雪の絶えないヌタクカムウシュペの裾を西に折れ、山峡の低みをかけおりた水は、急湍となって川上の浸蝕谷をよぎる。やがて盆地の水々を集めて西の壁である中央山脈につき当った。かたい古生層の岩角をつき破って湧き立つ奔流となり、イシカリの野に噴きだした。そこから南に下って一帯の凹地を回転しながら流れて行った。幾度となく河床を変え、三日月なりの水溜りを置き去りにした。それでも水は多すぎたし、勾配は緩やかすぎた。岸からはみだして附近の土地を濡した。うろうろと原野をさまよい、ゆるりゆるりと流れひろがるのであった。数々の草や木は、その水に向ってたたかい挑んだ。根を張ろうとあせるのだ。季節が来ると川はあふれた。木の根や草の芽は鎧袖一触であった。堅い岸べもぽこりと削りとられた。