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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

目と鼻がきゅンと痛んだ。涙と水ぱなが流れだした。そして、むかむか腹立たしくなった。もくもく燻っている焚き木に怒りがぶっつかって行った。雪のついた沓の先でそれを蹂りつけた。

弟妹たちはじりじりと後にさがった。ときどき爆発する長兄のそういう怒りには、捉えどころが無かった。遠のいて眺めていた。

むろん高倉祐吉自身でも、燃えない炉火がその原因だとは思っていない。閉じこめられた永い冬の、陰気で単調なその日その日が、暗い小星にはいると、まことに際限なくつづくような気がする。焦燥であった。立っても坐ってもいられない、何かこう――生理的な悩ましさでさえあった。自分の身体をやぶって、赤い血をどくどく放出したら少しは気が楽になるかも知れぬ――そういうもだもだしたものであった。

その上、それと気づいて耳まで赤くなるのだが、誰にも見せない彼の胸のうちでは、あの忌々しさが煮えくりかえっていた。あのひとに子が生れるのだ。汚らわしい。長い睫毛の下にぱっちり開いた彼女の黒い瞳が、いつの間にかすっかり落ちくぼんでしまい、眼はにごり、瞼は黝んだ。痛ましく痩せた頬にいつも独りだけの微笑を湛えて、もはや彼にはほほえまなくなった。