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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

吐息をつくようにそう答えた。行商人は鋼鉄の荷をしょっていた。従って、彼のカンジキはよほど深くぬかっていた。身軽な若いものと歩調を合せるのに努力していた。

「と言うと?」

「ああ、よく見える」と鋸屋は話を外らして立ちどまった。

彼らの立ちどまった地点から遙か奥地の山々がま正面に見えた。山というよりも、淡い水色にほのぼのと浮んだ幻しであった。この野の末にも、ついに、その限りはここにあるのだ――と、巨大な画匠が一刷毛、さッと軽く筆をすべらせたのである。それに較べると、割合い近い右手の山脈は、凍りついた積雪をまッ白に、どぎつくぎらぎら光らしていた。手近の山は、層々かさなると、幾らか灰色がかって見えるその降りたての雪にすっぽり包まれている。黒いものは何ひとつ見えなかった。宏大な風景であるとも云える。しかしまた、白一色に彩られて、空しくがらん洞の景観でもある。

烏が鳴いて、彼らの頭上を、逆に浜の方にとび去った。

物音は、後にも先にもそれだけであった。

こういう静けさとこういう宏さのなかで、彼らは思わず、点描にも及ばぬ自分の姿を思い描くのである。面を伏せたような佗しいものに捕われる。