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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

すると、残った彼らの一団に傷はつかないのだ。従って、打開すべき新たな方法も浮んで来るであろう。

――その積りで、と、言葉としては云わなかったが、盃を渡す邦夷の胸中にもそれが書かれていたと思わねばならない。

阿賀妻はこれから乗りこんで行く開拓使庁のことを考えて武者ぶるいを感じるのである。朝凪ぎながら海近い空気の冷たさであったのか。こめかみがうずくような清冽なものに打たれ、立ちどまって深い呼吸をはきだした。軍門に降ったとは云うものの、一度は憎しみをもって対峙した薩摩の人間であった。時代は変ったにしても、その間わずかに二年しか経ていない。敵と思った彼らの胸の底には、敗北した恨みとともに、消しがたい反感がくすぶっていた。彼らが支配者として自分らの上に立ちあらわれたという味気なさ。こちらの困憊とは反対に、刻々に、彼らが政権の基礎をかため、人心を収纜しているという否定し難い事実の圧迫。誰が彼らの失策を祈らなかったものがあろうか。しかし、みごとに彼らは成功しているのだ。昨年まで函館にあった庁舎は、今年、融雪期とともにゼニバコに移り、そこからサッポロの都府築営を監督して、いよいよ先日移転したというのである。