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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

四人のものは額を集めていた。阿賀妻の掌にある磁石の虫に見入るのだ。汗ばんだ硝子の底でぴくぴく動いている磁針に目をおしつけて行った。

おもむろに老眼鏡を取り出して戸田老人が云った。

「なるほど、これでは逆の方角になるようじゃな」

「道にまよわしよったな、貴様は――」

そばに来ていた案内人は玉目の声に一足とび退った。

「それでもう、さい前からいろいろくふうして歩きましたが」

「くふうとは何じゃ?」と阿賀妻が云った。

「へえ、つまり、その」

「貴様――いつ、その地に参った」

「一昨――その前の年でしたかな、あれは何でも、兵部省とかの仕事で」

「季節はいつじゃ、夏か冬か?」

「それが冬で――」

「冬ウ?――」と阿賀妻はうなった、「しからば雪のあるときじゃな」

「つまりそう云うわけで」

「この方面に相違ないか」

「――と、そう思ってご案内いたしましたが、こう山の中にはいり込んで、こう草木がしげっていたんでは、皆目見当もつきませんで」

「ばかッ!」

「へえ」

「しかし、われらにも落度はあるというもの――」と、阿賀妻は仲間のものに向きなおった、「ここらで夜を過して、明日はまた明日の日を待たずばなりますまい」