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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
阿賀妻は手をあげて話を抑えた。
「お茶を一ぱい頂きたい」
「これは恐縮いたしました」
「町を一まわり致してみたく存ずるので」
彼はそう云って腰を浮していた。外の空気を吸いたいと思う気持であった。枯れて行く建築材の臭気と、埃ッぽい風が隙間から降っていた。戸外の空気に触れたいのは、何か混乱するものを感じていたからだ。親しみ易げな印象を得た堀大主典の応接に、うっかり寛いで、その一瞬の気ゆるみに、ついと足をさらわれたような心のよろめきを感じた。話の長びくのも気になって来た。はい、左様か――と、それで引きあげられない立場でもあった。考えを整理するために空の青さを仰ぎたいのであった。
午後の陽は散らばっていた。行きわたり兼ねるような広い空は、晴れてはいるが青くは見えないのである。吹きまじる風が陽のかげをうすめるのだ。仔細に見れば、町というには名ばかりであるが、家々が、木目の白さを競っていた。しかし、官宅の堂々さに比して、東西に画る火防線を界にした南の町地には、昔のままの草葺小屋も雑居していた。果して永住の地となるかどうか、人々の気持はまだきまっていなかった。官庁のおこぼれを拾って跟いて歩く一連の人民たちであった。