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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
それとは語らないが、彼らの経験からして、たとい、ばたばた土木を起しているにしろ、この官が果して動揺しないかどうか。半信半疑をその生活の仕方にあらわした大部分のものは、吹けば飛ぶような草小屋で商いをはじめていた。いざと云えば、ひと抱えに掴んでどこにでも落ちのびられるような手軽な世帯を張ることによって。
「お頼み申す――」と彼は一軒のよろず屋をのぞいた。
「何だね?」
その声は店先に寝ころんでいた。斜めの陽が半身を照して、その男の額と鼻に汗のつぶを出していた。
「米の値はどのくらいいたしておる?」と彼は云った。
「米は要らねえよ」
「売ると云うのではない、値はいかほどだ?」
「一円――だ、せいぜい」
「なに?」
「一俵一円なら――というのさ」
「一俵が一円?――」と阿賀妻は目をまるくした。思わず声が大きくなっていた。
それが、米の出来ないこの土地の、この季節の相場であった。
前の年である。移住のために食糧の準備をした彼らは、凶作のあととは云え、米作地で、石十円に近い米を、それも、後日を慮って二年分の見越しをつけて買い込んだ。豊かにもない資金をやり繰って、その大半を和船の廻送に頼んだが、未だに到着していなかった。