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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「外国の文化人たちは、みんな世話になっているんですから」
「じゃ、それでいいですね」
瀬川が実務家らしく話をうちきった。
「ВОКСからは大使館もじきです」
ВОКСというのは、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)にある対外文化連絡協会の略称であった。この対外文化連絡協会は、ソヴェト同盟の各都市に支部をもっているとともに、世界の国々に出張してもいる。伸子たちが、旅券の裏書のことで東京にあるソ連大使館のなかに住むパルヴィン博士に会った。あの灰黄色の眼をした巨人のようなひともВОКСの東京派遣員であった。こんど、佐内、秋山その他の人たちが国賓として来ているのも、万事はВОКСの斡旋によった。
瀬川につづいて、出かける仕度に部屋へ戻ろうとする伸子たちに向って、茶道具がのったままのテーブルのところから秋山宇一が、
「ВОКСで、すごい美人がみられますよ。イタリー語と日本語のほかはあらゆる国語を話すんだそうです。アルメニア美人の典型でね――まア、みていらっしゃい」
笑いながらそう云った。
黒い羊のはららごの毛皮でこしらえたアストラカン帽をかぶり、同じ毛皮の襟のついた外套を着た瀬川雅夫について、素子と伸子とは雪の降る往来へ出た。