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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)大学の新学期は九月中旬から開かれるのだった。

「だからさ、ロンドンへは飛行機で行きましょうよ。いいでしょう? そしたら、まだるっこくないでしょう? そして、ざっと市街見物して、三日で立って来ればいいじゃないの」

そういう伸子の手をつかまえるような表情で、小枝が、

「飛行機なんて――何だかこわいようだわ、大丈夫なのかしら?」

と云った。

「このごろ、海峡でおっこちたって話はちっともきかないじゃないの」

「それより、姉さん、船に弱いんじゃなかったかな」

「弱いわ」

「吉見さんはいかがです」

「さあ、わかりませんね。しかし、昔大島通いの船じゃ散々でしたね」

「それじゃ二人とも、あやしいんじゃないですか。やっぱり相当酔うものらしいですよ」

「そこがいいところなのよ。吉見さん、ロンドンへ三日しかいないなんてがんばっているんだもの、あとで何がおもい出せるもんですか。だからね、たしかにドーバアを越えたっていうことを一生忘れないためには飛行機で行っておいた方がいいのよ」

「それにしても、いまごろは、おやじさん、さぞ感慨無量で二十年ぶりのロンドンを歩いているんだろうなあ」