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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
と云って毒ガスの研究をしている軍国主義者でもない。死んだ保のように、善いことをするためには絶対に善い方法がとられるべきだ、と、おさなくひよわな精神の力をふりしぼって絶対の正しさを求めた若者でもない。社会主義へという一つの方向へ啓蒙しようとするばかりの論議よりも、より深い複雑なところで蜂谷良作が現実を捉えようとしたがっていることは、伸子を反撥させることではなかった。伸子自身も、ものごとの、しんのしんから知りたがる方なのだったから。そうして知ったものこそ、つよいと信じているのだったから。
話しこんでいた蜂谷良作は、腕時計をのぞいて、
「――こんな時間なんだろうか」
素子の時計と見くらべた。
「そりゃそうでしょう、芝居がはねたのが何しろ十一時すぎだったんだから」
サン・ミッシェルの大通りはまだ宵のくちの賑やかさで、カフェーの客も女づれが目立って入れかわり立ちかわりしている。
「よわったな」
蜂谷は、こまった額に太い横じわを現した。
「クラマールへ行く電車が一時までなんだ」
「どこなんです? そのクラマールって」
「ヴェルサイユ門から四十分ばかりのところなんだけれども――よわったなあ」