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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
ミセス・レイマンの手紙にある和一郎夫婦の「前途多幸な未来」という文句を、伸子は、言葉に出して誰にいうこともできない懐疑をもって見つめた。ミセス・レイマンにとって懐古的な思いをそそるばかりのプロスペラスという言葉、戦後、ひとしお激しい資本主義経済の波に追いまくられて、ロンドン市内の生活を支えきれず、郊外の一隅へなげだされたささやかな中流の一家。あからさまに言ってしまえば、伸子は、和一郎の代になってからの佐々の家の未来に、ミセス・レイマンが経た生活の推移と大差ない過程を予感しているのだった。
泰造と多計代とはミセス・レイマンとその息子のジャック・レイマンを、少し改まった午後の茶に招いた。七十歳ちかい母親であるミセス・レイマンと三十歳になったばかりというジャックの上に、大戦を境とするロンドンの中流人の経済的な世代のちがいが、あんまりくっきり描き出されていて、伸子は苦しいようだった。ミセス・レイマンはその老年にかかわらず、レースの訪問着はややつかれているにかかわらず、いくらか頬の艷があせているだけで、イギリス婦人らしいしっかりとした骨格と血色を失っていなかった。