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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

「そう急ぐわけでもないんでしょう」

「親たちが帰れば、わたしはすぐモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へもどります。だから――そうね、ひと月はあるでしょうね」

「そんなにさしせまっているのか」

蜂谷は思いがけなさそうだった。

二人は、モンソー公園の前にある広場めいたところのカフェーで休んだ。夕方になったら、俄にうすらつめたくなった風がマロニエの落葉をころがしてゆく秋の公園前のカフェーには腰かけている人の数も少かった。

公園の樹の間で街燈がともった。

そのカフェー・レストランの内部にも同時に灯がはいって、パリの夜の活気が目をさました。

「佐々さん、ついでに、ここで夕飯をすまして行きませんか」

ことわらなければならない理由もなくて伸子は、だまっていた。

「この間は、あんなにして不意に泊めてもらったりしてお世話になったし――いいでしょう?」

「――部屋をあけてあげたのは、わたしじゃなかったのよ、吉見さんよ」

「――じゃあ、その代表として。――ここなら、きっと、カキがうまいだろう」

半ば公園のあずまやのように作られているそのレストランは、女づれで来るような客で段々賑わって来た。