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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

その思いつきはあっさりしていて、伸子を躊躇させる何もなかった。

伸子は、ハンド・バッグから小さい手帳を出して、そのうしろに蜂谷良作が書きつけて行ったクラマールの八四五という電話を呼び出した。蜂谷は在宅だった。伸子は、ごくかいつまんで、今朝のあらましを話した。

「ふらちな男だな。どういうんだろう。僕が行って談判してみてもいいですよ」

「ありがとう。でも、それはいいんです」

今さら、男のひとに出てもらう気は、伸子になかった。

「ただね、もしかしたら、部屋の事でお心あたりがあるかしらと思って」

「――じゃこうしましょう、僕はどうせ、きょう午後から用事があって市内へ出るから、そうだなあ……二時ごろになるかな、そちらへよって見ましょう――ペレールでいいんでしょう?」

よびたてたようで、伸子は気がひけた。

「そんなことは、かまわない。どうせ、ついでなんだから……」

蜂谷良作は、その午後約束の時間に伸子をたずねて来た。

六

蜂谷良作とつれだって、伸子はその日のうちにエトワール附近にある貸室をみに行った。ペレールのアパルトマンの古風さにくらべると、新式で軽快な建物の三階の一室だった。