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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
いそいで陳列台の間を近づいてゆく伸子を認めると、須美子は手にとりあげていた白い子供ものを下において、
「ああよく!」
と云った。
「おいそがしいのに、ごめんなさい」
ブルターニュ生れらしい、実直な看護婦が、抱いている子供の体のかげから、
「こんにちは、マドモアゼル」
というのに答えながら、伸子は、少し息をはずませた声をおさえて、
「ごめんなさい、行きちがってしまって。両親がジェネ※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ立つのを送っていたもんだから……。でも列車は十時に出たはずなのに、どうしておくれたのかしら――」
「あなたに忙しい思いをおさせしてわるうございましたけれど、わたしは、うれしいわ、来て下すって――」
須美子は、伸子の手をとったまま、唇をひらかないほほえみを泛べた。恭介が亡くなってから、ほほえみらしいものを浮べた須美子の顔を伸子は、はじめて見た。
須美子は、そこで、看護婦の腕にだかれている子供のいまの小さい体に合うような、そして、いくらかあとまで使えるような形や布地の下着を注意ぶかくいくつか選び出した。それから別の陳列台のところで、歩けるようになったときのために可愛い白鞣の靴を一足買い、船のなかで使うために桃色の子供用毛布とフードつきのマントを買い求めた。