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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

一つは恭介のために。もう一つは子供のために。須美子は二つのカバンを買ったのだった。しきりに大きさを気にしていたわけもわかるように思えた。彼女は、夫と子供とを一つのもののなかに入れ日本までの旅をしたかったのだ。そういう買物であったから、須美子は伸子でも、わきについていてほしいこころもちであったのだ。

天井の電燈をつけたまま寝室に姉とならんで横になり、つや子はとなりの寝台からたのしそうにしゃべっている。

「お姉さま、真暗のなかだと、空気が重くなって息が苦しいようにならない?」

「そうかしら。――わたしは小さいとき、真暗ん中で目をあいていると、体がだんだん四角く小さくサイコロみたいになって行くようで、こわかった」

「ふーん」

話しながら伸子は考えつづけた。きょうプランタンで須美子がきまった型のカバンをさがして、いつもの須美子に似合わず執拗に陳列の間を歩きまわっていたとき、伸子が、おせっかいな口をさしはさまなかったのは、せめてものことであった、と。須美子の熱心さには何かあたりまえでないところがあった。それが伸子をおさえたせいだった。そのカバンを二つも買うことについて、用途を説明させるような物云いをしなかったのも、伸子は、せめてもだったと思った。