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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

「日本のやりかたと全く同じだな。そっちはおふくろがひきうけて、金で解決したらしい」

ジャックは、初対面で、言葉の自由でない伸子には、ひとことも口をきかなかった。武骨な、頭がおそく働くような青年だった。フランシーヌは、興奮していて、顔のよこにたらしている艷のない栗色の捲髪をときどき手で払いながら、テーブルに片肱をかけ、鼻にかかる声を一層ひっぱってできるだけ大人の女のように蜂谷と話している。ルーマニア人を父にもっているフランシーヌの顔だちには、東洋風な特徴があった。彼女は、物憂げな優美さを自分につよく添えることがその特徴をいかすために洗煉されたポーズだと信じているようだった。

伸子の中にいる、白い猿はますます生きたものになり、その存在を主張した。それがなくなれば、伸子は何かを自分の中から失うことだという感じが抑えられなくなった。何のために、自分はあんなにせき立って――猿をうっかり忘れるほど――クラマールへ来ることをいそがなければならなかったのだろう。蜂谷は、伸子が来てさえしまえば、そのあとに伸子が何を忘れて来ようと、それについて伸子がどんなに心苦しく感じていようと、たかがおもちゃ一つときめて、無頓着でいるのも、心持よくなかった。