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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
それは、伸子に向って、蜂谷良作は鈍重な男であると告げているのにひとしかった。蜂谷良作は、柴垣の言葉にふくまれている刺すようなものを感じたのか感じないのか、軽い風の中にとけて輝いている西日をぼってりした顔の真正面からうけたまま歩いている。柴垣という人は、どんな絵を描くのだろう。伸子は好奇心をもった。
「いつか柴垣さんの作品を見せていただけるかしら」
すると蜂谷が、
「フランシーヌの肖像かいたのは、柴垣君だ」
と云った。伸子はそれを見ていなかった。
「ありゃ仕様がない! 僕もうまくはないが、モデルにてんで性格ってものがない。われわれとしちゃ、ただでモデルになってくれる人は、誰でもありがたいもんですからね。ところが、彼女、あれで、すっかり背負っちまったね」
クラマールに住んでいる日本人は、蜂谷、柴垣のほかに、もう一組の画家夫妻、フランス農村の研究をしているという吉沢準造などだった。蜂谷は散歩の道すがら、これらの人々の住居の戸口へ立ちよって、新参の伸子をひき合わせた。伸子の気が向いたとき自由に訪ねられるように、と。吉沢準造が部屋をかりている家というのは、クラマールの端れで、庭の小道づたいに裏へまわって行くと、広々とした畑に向って葡萄棚のあるいかにも田舎づくりの二階だった。