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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
おだやかにそう云った。そして、考えている風だったが、ほっそりした形のいい腕をテーブルの上にすこし深く置きなおすようにして、リン博士は伸子にきいた。
「――モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)はどうでしょう……モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の生活は、あなたを変えると思いますか?」
こんなに煮えている鍋のなかで、変らずにいられるものがあるだろうか。
「モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)は煮えています。――誰だって、ここでは煮られずには生きられません」
ひとこと毎に自分をたしかめながら、のろのろ口をきいていた伸子は、
「でもね、リン博士」
へだてのない、信頼によってうちとけた態度で云った。
「いつでも、すべての人が、同じ時間に、同じように煮えるとは限らないでしょう?」
「…………」
「わたしは、わたしらしく煮えたいのです。いるだけの時間をかけて――必然な過程をとおって――」
しばらく黙って、伸子の云ったことを含味していたリン博士は、右手をのばして、テーブルの上で組み合わせている伸子の、ふっくりとして先ぼその手をとった。
「――あなたの道をいらっしゃい。