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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

その手紙をうけとったのは、クラマールに晩秋の雨がふっている昼だった。赤銅色の秋の梢にかかる明るい雨脚を眺めながら、伸子はベルネの家の二階の室で、壁と衣裳箪笥との間に置かれて肩のつまるような気持のする机に向って、くりかえしその手紙をよんだ。

素子のかきぶりは、簡明で、一つも余分な感想はつけ加えられていなかった。多計代のモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)での行動が、それだけ語られている。クラマールという遠くはなれたところでそれを読む伸子にとっては、素子が冷静に書いているというそのことのうちに、息をつめていた彼女の顔つきが見えるのだった。ぶこちゃんが一緒に帰って来たがらなかったのもわかるような気がする。しかしね、ぶこちゃんがかりに一緒にモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ帰って来たとしたら、果して同じことが起っただろうか。そこのところは、わたしにもわからない。――素子のこの表現もデリケートだった。伸子がみんなと一緒にパリを立たず、あとから自分だけでモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ帰ろうときめたことについて、素子は前後して書いている手紙のどこにも、その問題に触れて自分のはっきりした意見は示していないのだった。