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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「ふーん。きみたちの間には、そういうこころもちがあるのか」
蜂谷良作は、
「吉見君にも、あれでなかなかいいところがあるんだな」
むしろ感慨ふかそうに云った。
「そうでなくて、どうしてこんなに長い間暮して来られるもんですか」
「そういうわけだな。――そりゃ、たしかにそうだ」
深く会得するように、蜂谷良作はうなずいた。素子が、あれで、思いもよらないとき急におこり出したり、おこると、そのおこりかたがひどくて、妙にぐらんと居直るような切ないところさえないなら……。たとえ、こういう小切手をもらい、それを心からうれしいと思っても、そういうときの素子に、伸子がついて行けないことに変りはなかった。そのついて行けなさは、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)生活の間に伸子の側で強くなって来ている。あいてが誰であるにしろ、ひとからおどかされて泣いたりするような自分、そういう自分を軽蔑することを伸子が学んだからだった。
伸子と蜂谷良作とは、商業街の小商人たちが食事兼用談をする町角のカフェー・レストランで、簡単な昼食をとった。
「きょう、わたしは、ほんとすごいけちなのよ。アントレまでは、さっきのきまりどおりよ」