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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
伸子の気持を誤解しないように、ということを。もう一つは、彼が伸子に興味をひかれている点を分析してみれば、そこには伸子の生れつきそのものよりも、伸子がモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)で暮して来ている女であるということからつけ加えられている、さまざまの要素があるという事実に着目して、蜂谷が現実的な気分になるようにしようと思うのだった。それらの要素が、伸子を蜂谷の細君とちがう一人の日本の女にしているのはほんとうであるかもしれないし、また蜂谷がフランスへ来てから知って来ているに相異ないどこかの女とも、当然、ちがう伸子であらせているだろう。そこには、微妙ないりくんだものがある。伸子が蜂谷にソヴェト同盟の切手をやる気持になったのも、彼がすき、という動機からだとばかり考えるとしたら、それは二人の間にある事実ではないのだから。――一九二九年の十月二十九日という恐慌の日がなかったら、そして、伸子が、ソヴェト同盟を中心に目ざめはじめている人類の理性のたしかさに感動することがなかったら、蜂谷は、あの一枚の水色と赤と白の切手を伸子からもらう機会はなかっただろう。