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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
ヴェルダンの駅へおりて、伸子はあまり深いあたりの静けさと、その静けさにつつまれて輝いているステーションの建物の白さにおどろいた。どこからどこまで真白いステーション。それは目に馴れない宗教的な清潔さだった。ほんのちらり、ほらり駅前広場へ散ってゆく人々にまじって、伸子と蜂谷良作とは、国際学生会館からの人たちと落ち合う約束になっているホテルへ行った。小規模なそのホテルの食堂も、白と金とレースカーテンのほのかなクリーム色に飾られて、喪服の年とった婦人がひとり、むこうのはじの小食卓についている。すらりとしたその黒い姿も、クリーム色のレースのひだに柔らげられて、あたりは寂しい昼間の明るさにみちている。伸子は思わず小声で、
「しずかねえ」
と云った。
「何て、どこにも音がしないんでしょう」
注文をききにきた給仕に、
「町はどっちの方角にあるのかね」
蜂谷良作が訊いた。
「ムシュウ」
給仕は、ナプキンを下げている左腕を心臓のところへあてて重々しく答えた。
「われわれのヴェルダンは、市そのものが記念塔です。ヴェルダンは、沈黙の都です。ここで暮している住民はごく少ししかいません」