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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
澄明な静寂を、いちどきに肉体の影でかき乱すように国際学生会館の小さい一団があらわれた。
「やあ」
「お待たせした」
「食事は?」
「すませた」
「じゃ、コーヒーの一杯ものんで、すぐ出かけるか。――みんな観るには大分時間がかかるらしい話だよ」
ひとくちにヴェルダンとよばれているけれども、見物すべきいくつかの要塞は互に数マイルずつはなれて、国境よりの丘陵地帯に散在しているということだった。
十二
ヴェルダンをまもっているものは人間ではない。獅子である。これは第一次大戦の終りごろ、はげしい十ヵ月間の包囲をもちこたえていた不落のヴェルダンについて云われた言葉だった。その言葉をかたどって、ホテルから一丁ほど歩いた往来の右手にきりたった崖のようにつくられている記念碑の頂には、堂々と横わっているライオンが置かれている。
せまいその通りをぬけて、六人の日本人をのせたオープンの自動車が家もなければ、人通りもない道の上を快速ですすんでゆくにつれ、ヴェルダンという、かつて一万三千余の人口をもって繁栄していた都市が、今は全くの廃墟であることがわかった。ヴェルダン市役所の跡は、よく整理されている廃墟にいくらかの土台石と数本の太い迫持の柱列が、青空をすかして遺っているばかりだった。