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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
ここへ来て、いらくさの間におちているこの一つの輪を見つけたとき、おそらく、どこの国の女でも、彼女が平民の女であるならば、思わずかがんでそれを撫でずにはいられないであろう。
ドゥモンの砲台のわきから細い裏道づたいに下ってゆくと、すすきに似た草の穂がゆらいでいる砲弾穴に、さびた鉄兜や空罐がころがっている。朝の霜にゆるんだまま程なくふたたび夕闇に沈みこもうとしている丘かげの、足許のあやうい赫土の小道の上に伸子は一つの女靴の踵の跡が、くっきりと印されているのを見た。
十三
伸子の瞳のなかに、ドゥモンのいらくさの間の金の小さい輪が光っている。彼女の額の上には、女靴の踵のあとが銀杏の葉のようについている。伸子は自分の瞳であっていつもの自分の眼ではないような視線で、運転手とその三人の仲間が近くのテーブルのまわりでカード遊びをしている光景を眺めていた。
六人の日本人が要塞見物を終って、ヴェルダン駅前の出発点へ戻って来たのは、日がとっぷり暮れてからだった。ホテルは、昼間つかっていた正面入口わきの正食堂をしめて、横通りから入るカフェー・レストランだけあいていた。そこの一隅で六人がちょっとした夜の食事をすませた。