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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
バケツに入れたトワローグ(クリームのしぼりかす)などまで売っている。素子と伸子とはそういう品々を見て歩き、素子は素子らしく、ホテル暮しでは買ってもしかたのない鶏一羽の価をきいたりした。そして、一人のリンゴ売りの前へ来かかった。年とったその男は、ものうげに小さい木の台へ腰をおろして、山形につみ上げたリンゴを売っていた。ちょっと肩のはった形で、こいクリーム色の皮に、上気せた子供の頬っぺたのように紅みが刷かれている。そのリンゴは、皮がうすくて匂いの高い、特別に美味しい種類だった。ただ赤くて、平ったく円いリンゴよりは価もいい。素子は、
「うまそうなリンゴだね」
と立ちどまって見ていたが、
「パチョム(いくら)?」
くだけたねだんのききかたをした。リンゴ売は、ろくに開けていないような瞼の間から、ぬけめなく、価をきいているのがロシアの女でないことを認めたとみえ、
「八十五カペイキ」
わざとらしいぶっきら棒さで答えた。
「そりゃ、たかい」
素子が、こごみかかって果物を手にとってしらべながら、ねぎりはじめた。
「七十五カペイキにしておきなさい。七十五カペイキなら六つ貰う」
素子が、買いもののときねぎるのは癖と云ってよかった。