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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「どうだかな――むしろ益々救いがたいんじゃないか」
「そいじゃ、彼はただのアル中にすぎないじゃないか」
「僕がいつも云っているとおりさ。かんじんのものをもち合わさないくせに、中毒ばかり模倣したって、どんな画家も生れちゃ来ないんだ。さか立ちしてディフォルメだけまねたってそれでピカソになれた奴は一人もいないんだ」
そう云っているのは長椅子によこになっている柴垣だった。
「どういう自分が生れて来るか、そのおれの誕生を待ちきる辛抱が修業第一課さ」
そう云う間も柴垣は唇からはなしたパイプを宙にうかせて持ったまま、視線に注意をあつめて、亀田の細君の手もとを見守っている。ストーヴのよこに立って、彼女はコーヒーを入れかけているところだった。親友の家庭で、そこの主人よりも細君の料理に関心を示す男がある。いつかそういう習慣になっている友達の目つきで、柴垣は、亀田の細君の手もとを見ているのだった。
去年の冬もおそらくここでこんなにして、柴垣は、自分の誕生を待っていたのではなかったろうか。ほとんどすべてのひとはしばしば行動的に考える。だけれども、ほとんどすべての人が考えるように行動的には行動しない。