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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

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武島裕吉の死に対して、ああ云ったその作家が、蕗子の弟である画学生の死を批評したらば、彼は何というだろう。いまモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の下宿で、伸子は湯加減をみるためにガス湯わかしの匂いがかすかにする浴室へ立って行きながら考え沈むのだった。ふくよかに、おっとりして、赤い小さい唇をしていた蕗子の生のなかにもこうして一つの切実な思いからの死が包括された。伸子が自分の生涯のなかに保の死をうけいれたように。蕗子にとって弟の死は、いつも彼女の前に立つだろう、なぜなら、その青年は自分ののりこせないものから逃避したのではなくて、そこへ身を投げ入れたのであったから。

石鹸の泡を体じゅうに立てこすりながら伸子は尾を長くひく考えの継続から自由になれなかった。ある立場に自分を据え、その立場によりたっていろいろ議論することに熱中している人たちと、その議論によって考えさせられ、自分をきびしく吟味し、生命の価値さえ自分の責任で決定してゆこうとする正直な、ごまかしのない人々の存在。――伸子は、自分たちは、はたとの関係においてどんな風に生きて来ているかと思ってみずにいられなかった。