轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

「どうぞ」

デスクに向いたまま伸子は返事した。

「よろしいですか」

ドアから半身あらわしたのは、伸子たちのいる下宿の主人であるルケアーノフだった。伸子は、ちょっと瞬きした。彼女たちが越して来てから、主人のルケアーノフが自身で室へ訪ねて来たという前例がまだなかった。

「おはいり下さい、どうぞ」

デスクの前から立って伸子はドアのところへ出て行った。ルケアーノフは、ドアのノッブに片手をかけたまま、

「あなたおひとりですか」

ときいた。

「吉見さんは、正餐に帰って来ます」

ルケアーノフは、栗色の髪がうす禿になっている顔をすこしかしげ、何か考えたが、

「よろしいです」

いそいでいるが、待とうと決心した口調で云った。

「では、正餐のあとで――」

「御都合がよかったら、わたしたちが、あなたのところへ行きましょうか」

「わたしが来ます、では、のちほど」

ドアをしめて去ったルケアーノフの靴音が、食堂につかわれている隣室のむき出しの床の上に暫くきこえて、やがてクワルティーラじゅうがひっそりとした。

何かがおこっている。――ルケアーノフと伸子たちとにとって、何か愉快でないことが。その予感を疑うことは出来なかったが、伸子には、たしかに愉快でないにちがいないことの内容が、推察されなかった。