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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
人々が忙しそうに行き交う廊下をとおって、アルミニュームの鍋をはこんでゆく婦人がある。事務的であるが家庭的でもあるような雰囲気を、伸子はものめずらしく感じた。リュックスには、国際共産党関係の人たちばかり住んでいるはずだった。コミンターンという名から伸子がうけて来ているいかめしい感じは、廊下にまでただよっているシチのにおいで、ひどく人間ぽいものにされた。
肩の力が和らげられた気分で、伸子は大廊下を左に曲り、一層光線の足りないわき廊下に向って、しまっている両開きの大扉の上を見ながら進んだ。白いペンキでドアの上にじかに318と書かれている。そこが山上元の室であるはずだった。
伸子は、割合力を入れてノックした。
「おい」
そんなような返事がした。さっき電話できいた山上の声であった。伸子は、ドアをすこし開き、室内の見えない位置に自分をおいたまま、
「入ってもようございますか」
「おはいり」
古びた、大きな、ごたついた室の右手のデスクで山上元はタイプライターをうっているところだった。
「もうじきすむから、そこへかけて待っていなさい。――どうせ、いそぎゃしないんだろう?」