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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「たべて見なさい、うまいよ」
云われるとおりに、ジャムを小皿にとって、ロシア流に茶をのみながら、伸子には、そのジャムがお愛想でなしにおいしかった。たしかに上手に煮られているし、伸子たちは、正餐につく乾果物の砂糖煮のほかには、甘いものなしで暮しているのだった。
「きみは、酒をのまないのかい」
「いいえ」
「ローザは、酒のつよい女だったよ」
「ローザって、ルクセンブルグですか」
「ああ。アムステルダムの会議では、ローザが僕の通訳をしてね――あれは素晴らしい女だった。火みたいな女だった。朝っぱらから葡萄酒をのんで、いつもほろよいきげんなんだが、そういう時のあの女の頭の冴えようときたら、男がたじたじだった」
面影がよみがえってそこにあるというような、話しぶりだった。
「わたしたちは、ひさし髪に結って、白いブラウスを着たローザの写真しか知らないけれど」
「あの女はたいしたものだった。クララもそのとき会ったが、ローザにくらべるとクララの方は、ずっと常識的な女だ」
「ツェトキンですか?」
「ああ。あれは常識的な女だ」
伸子は、山上元の話しぶりを軟かにニュアンスの深いこころもちできいた。