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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
山上元は、どこを、日本のインテリゲンツィアによませなければならないと考えたのだろうか。
机の前で、全巻の小見出しをしらべながら、伸子は、素子の皮肉な言葉が当っているのかもしれないと思った。伸子が、日本の読者のために果して適切な一章を選ぶかどうかということは、伸子の政治的な理解力とその実際の分別を示すのだから。
そうだったとしても、伸子は、山上元のそういうやりかたにずるさだの人のわるさだのを感じることは出来なかった。そういうことはどうであれ、自分に与えられた新しい仕事を力いっぱい果すこと。それだけが義務だと伸子は考えた。
長い時間しらべた上、伸子はネチャエフの法廷での陳述の部分だけを訳すことにきめた。その部分だけでも、伸子がつかっている半ペラの原稿紙で四五十枚になりそうな分量だった。
法廷の用語、法律上の言葉。そうでなくても伸子の知らない実におびただしい数の言葉。そしてわら半紙のような用紙に印刷されている字体は古風で、パンフレットをよみなれている伸子をおびやかす。
右手にもっているペンよりも、左手で辞書をめくる時間の方が多かった。伸子は、ほんの一句ごとに、ぽつり、ぽつりと日本語へ書き直して行った。