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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
それは素子が伸子に向って訴えたただ一度の言葉だった。一緒にモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ来た伸子と素子とが、或る日、素子ひとり戻って行く。佐々のうちのものは、伸子をのこして、ひとり帰って来た素子に向って何というか、それは伸子に想像されることであり、そしてまた、それが素子を根本的に動じさせることでないことも想像された。素子をたえがたくしているのは、伸子がモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)にのこるようになったという結果を反射して、自分に向けられるにちがいない軽しめのようなものの予感だった。彼女がモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)で収穫した学問への軽蔑ではないにしろ、伸子はモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)に残った、という事実は、一方に、どっさりの本をもって、ロシアの現代古典に通暁し帰って来た素子の生活態度と、つよく対照するのは当然であった。ソヴェト同盟や他の国の街々で三年暮して来た間に、伸子の生活感情と、素子の生活態度との上につもったちがいは、何ときびしく踰えがたいものになったろう。それは、伸子からはじまったことだろうか。