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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

伸子が、ついそのとき自分の靴を買いそびれたほど買いての横暴な風俗だった。

パリジェンヌは、いつも黒を上手につかうことを知っている、とそれが日本の花柳的な粋に通じるパリ女の粋な趣味のように語られるのを伸子はきいたりよんだりして来た。だけれどパリには、パリの男の鳥打帽と同じ意味の女の黒い服もある。――彼らが利子生活者ではなくて、日々の労働で生きているものであることを示す男女の身なりとして。

一九二九年の三月から以後フランスでは生計費があがって、物価のやすい、暮しいいパリでなくなった。

「肉類や玉子、バタのようなもの、お豆やじゃがいもなんかが随分、ここのところであがりましたわ、ね」

磯崎須美子が、若い良人に賛成を求めるように、おだやかないつもの云いかたで云うのだった。

「わたしたちには不思議に思えますけれど――小麦なんか、かえってことしはやすくなっているっていうんですのにパンもあがって――。ここでとれるものの方が高くなりましたのよ」

「われわれみたいな、貧乏画描きにはどうして、こたえますよ。家族というものがありますしね」

恭介たちはこんどの子供が生れたについては、四つになる上の子を、デュトの家のマダムの世話でフォンテンブローの近所の田舎家にあずけているのだった。