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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

「わたしの筆不精がその原因かしら」

温室の出来たことを保がよろこんでいる気持は、伸子にも思いやられた。フレームでやれることはもうしてしまったと云って、伸子がモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ立って来る年の春から夏にかけて、保は勉強机の上でシクラメンの水栽培しかしていなかった。温室がもてた保のうれしさは、心から同感された。しかしそれを高校入学祝として、こしらえて頂いた、という範囲でだけうけとって、自分の青年らしい様々の問題に連関させていないような保の気持が伸子には不安で、もどかしいのだった。伸子から云えば、保にはもっと率直な気むずかしさがあっていいとさえ思えた。そのことを伸子は感じているとおりにかいた。

「保さんの健康と能力と家庭の条件をもっているひとなら、高校に入るのは、むしろあたりまえでしょう。親はどこの親でも、親としての様々の動機をもってそれをよろこび、よろこびを誇張します。けれども、その親たちは、自分の息子が高校に入れたというよろこびにつけて、ほんとにただ金がないというだけの理由で、中学にさえ入れない子供たちが日本じゅうにどれだけいるか分らないということを、思いやっているでしょうか。