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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
は無かったから。――パリへ来てみると、鶏は高価なものとされていて一般家庭の食卓へ出されるものでなかった。伸子も今はそれを知った。ムロンと云えば、それは日本でメロンをいうときと同じに、カンタロープその他の高級品をさすこともわかった。ヴォージラールあたりのちょっとした店では、ごく新鮮とは云えない桜んぼうを売っているが、ムロンはおいてはいないのだった。
タイプライターのおいてあるホテルの室の化粧台の上に、チーズや桜んぼうをひろげて二人で食べながら、伸子は、フランス婦人が、ウクライナの畑にころがっている西瓜を見て、あんなに愉快そうに、おどろいた顔をしたときのことを素子に思い出させた。
「そう云えば、ほんとにあのひとは感動したと云えるぐらいの顔つきだった」
「わたし、いま、わかったようだわ。あのひと、もしかしたら、あの畑の西瓜を、パリのムロンと同じものだと思ったんじゃないかしら。夕方だったし……」
「なるほどね」
「ここじゃ、鶏って相当の贅沢でしょう? ロシアではもっと日常性をもっているわ。丸やきの鶏をあのひとお弁当にもっていて、それもロシアの田舎風のゆたかさと思っていた上に畑ではデザートのムロンがごろごろしているって、心をうたれたのじゃないかしら。