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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
どの絵も、須美子の第一印象がそれらの景物をとらえた瞬間の実感的なディフォルメがあった。
「須美子さん、あなた、もっともっとお描きにならなけりゃ!」
伸子が、須美子の背中へ手を当てて前へ押し出すように心をこめて云った。
「あなたは、描ける方なのに。――こんなに表現なさるのに――ホノルルでお描きになったきり?」
「ええ。こっちへ来て、いろいろえらいひとの作品をみたら、わたしなんか、こわくなってしまって――」
「えらいひとはえらいひとよ。あなたはあなたじゃないの、須美子さんは、たった一人しかいないのよ」
「――」
ふと思いついて、四年前に描いた絵をもち出した須美子は、久しぶりで再びながめる自分の作品から、新しく今ある生活に迫って来るものを見出している風だった。
「いま思うと、ホノルルの二週間が、わたしの一生のうちでは一番幸福なころだったのかもしれませんのね」
そこにすごした日の思い出のなかへひき戻されている須美子の声の響だった。
「わたしたちは結婚したばかりで、磯崎もあすこではまだ本式な勉強をはじめていませんでしたし、わたしには子供がなかったから。……ホノルルで、わたしは子供のようでした」